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掲載日 2018-03-25 00:00:00
タイトル 絶望名人カフカの人生論
著者 カフカ/著 頭木弘樹/編訳
著者
出版者 新潮文庫
資料の種類
メッセージ全文 フランツ・カフカ…朝起きたら毒虫になっていた!という奇妙な小説『変身』で有名な作家です。
カフカは不思議な作品のほかに、手紙、日記、ノートなども残していて、そこから彼の人となりがよくわかります。

ひとことでいうと、ネガティヴ王。

作家として生きたいけれど、売れないから大嫌いなサラリーマンになり、
結婚したいけれど、ずっと独身で、
父親との仲は悪く、胃腸が弱くて不眠で病気がち
意欲はあるのに長編小説はだいたい未完…。
彼の手紙、日記、ノートには、それらに対する絶望の言葉がちりばめられています。

これは、そんなカフカの絶望の言葉を集めた本。

え?そんな気分が暗くなりそうなもの、読みたくない?
しかしあまりにもネガティヴすぎて、なんていうか…むしろ笑えてきてしまうのですよ…本当に。
編訳者の頭木さんの言葉をかりれば、誰よりも落ち込み、誰よりも弱音をはき、誰よりも前に進もうとしなかった男、それがカフカ。どんだけ…( ;´Д`)

第一章から引用しましょう(各章4~10の絶望名言が収録されてます)。

「将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。
将来にむかってつまずくこと、これはできます。
ぼくにいちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。」

のっけからもう立ち上がれないご様子…。
しかもこれ、結婚を申し込んだ相手に送ったラブレター…。
ラブレターなら、もっとこう…ほかに書くことあるよね?

ほかにも、目次を見るだけで、もうこんな↓です。

第一章「将来に絶望した!」
第三章「自分の身体に絶望した!」
第四章「自分の心の弱さに絶望した!」
第六章「学校に絶望した!」
第八章「夢に絶望した!」

…これ、第十五章までありますからね(なんですか第八章、夢も希望もないよ…)。

編訳の頭木さんは、普段はカフカ作品の翻訳や評論を行っています。
何故こんな本を作っちゃったのか。

それは「文庫版あとがき」を読むとわかるのですが、実は頭木さん、20歳の時に突然難病を発症し、「一生治らない、働くこともできない」と医者に言われます。
正に絶望し、引きこもっていた頭木さんの心の支えになったのが、意外にも、絶望の言葉がちりばめられていた、ネガティヴなカフカの手紙や日記だったのです。

つらい時、ポジティヴななぐさめの言葉は果たして心に届くのだろうか?
悲しい時こそ、その気持ちに寄り添ってくれるような言葉が必要なのではないのか?

自身の体験から、絶望している時には絶望の言葉が効く、とこの絶望名言集を編んだといいます。

生きることがつらいあなた、絶望に絶望の言葉を重ねてみませんか?
絶望名人カフカは、きっと一緒にどん底まで落ちてくれます。
あるいは「いや、私ここまでじゃないし!」と思うかもしれません。

特に絶望していないあなたも、頭木さんの愛あるカフカへのツッコミ解説にクスっとしてみませんか?
そしていつか、ふとカフカのことを思い出すこともあるかもしれません。

出会いと別れ、旅立ち…希望とそうでないものの入り交じる季節、
どうぞカフカと一緒に(涙と笑いで)乗り切ってください。

(太白図書館 まっきー)