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掲載日 2024-09-27 10:00:00
タイトル

いとみち
1の糸

著者 越谷オサム/著
著者
出版者 新潮社
資料の種類
メッセージ全文 『いとみち』 [1の糸]
越谷オサム/著 
新潮社

★☆★「これが “わぁ(わたし)” の進む道」★☆★

 自分を変えたい、変わらなきゃ…という思いから一歩踏み出してみたら、想像もしていなかった新しい世界が目の前に広がることってよくあります。

  青森県に住む高校一年生の”相馬いと”は、名手である祖母の教えを受けて津軽三味線の腕前がピカイチ。でもある理由で、得意の三味線から遠ざかっています。嫌いになったわけじゃないのに、楽器が持てない…そんなジレンマを抱えるいとにはもうひとつの悩みがあります。
 それは、祖母譲りの濃厚過ぎる津軽弁のせいで中学時代まで同世代からからかわれることが多く、引っ込み思案な性格で友達もいないこと。そんないとが極度の人見知りを克服するために思い切って始めたのは、なんとメイドカフェのアルバイト。
 定番の挨拶もどんなに頑張っても「お、おがえりなさいませ、ごスずん様」としか言えず、慣れない接客業に失敗ばかり。でも、オーナーや店長、先輩メイド達や常連客達に見守られ、鍛えられ、支えられながら少しずつ前進していき、日常も大きく変わり始めます。そんなある日、突然お店がピンチに!

 小柄でドジで泣き虫で口下手で不器用でネガティブ。コンプレックスの塊のようないとの成長物語に自分を重ね合わせたり、元気をもらえたり、思わず応援したくなります。えー、今更メイドカフェ?なんていう声が聞こえてきそうですが、魅力的な登場人物と津軽弁ワールド全開の、ほっこりして爽やかな読了感の青春小説なのです。
 ちなみに、日常的に三味線を弾いていると左の人差し指の爪先にできる(または作る)小さな溝のことを“糸(いと)道(みち)”といい、そこに糸をはめて演奏すると良い音が出るのだそう。コンプレックスを勇気に変えて少しずつ道を開いた先にあったのは、かけがえのない人達との間に結ばれた糸。人生って、こんな思いもかけない奇跡の連続でできているのかもしれません。

 実はこの本はシリーズになっていて、[2の糸]は高校二年生、 [3の糸]は高校三年生のいとの生活を描いています。
 2021年には映画化にもなり(仙台市図書館でDVD所蔵)、テイストは違えど一見の価値ありです。

(宮城野図書館 しまうま)