司書のオススメ

掲載日 2023-12-26 10:00:00
タイトル

卵の緒

著者 瀬尾まいこ/著
著者
出版者 新潮社
資料の種類
メッセージ全文 『卵の緒』
瀬尾 まいこ/著
新潮社

★☆★誰かと過ごす今を大切に★☆★

 僕は捨て子だ。母や祖父母の言動から、そう疑い始めた主人公・育生は、実の親子である証拠にへその緒を見せてほしいと母に頼みます。しかし、母が見せてきたのは卵の殻で、育生を卵で産んだと言います。小学生の育生でも、そんなの嘘だとわかるのに…。
 誰だって、自分が捨てられた子だと思ったら、ショックだし、悲しい気持ちになるでしょう。それに、この物語は「僕は捨て子だ」という一言から始まるので、最初は暗く重いお話なのかと思うのですが、読んでみると全然そんなことはなく、むしろクスリと笑えて温かい気持ちにさせてくれます。
 その理由の一つには、ユニークで大胆で深い愛のある母親はじめ、優しく癒しを与えてくれる登場人物たちと、穏やかな食事の場面があると思います。この物語には、食事の場面が多く出てくるのですが、おいしそう、お腹がすいてきそうという気持ちになるとともに、大切なことに気づかせてくれるのです。「すごくおいしいものを食べて幸せな気持ちになった時、これを食べさせたい、食べてもらいたいと思う人が、自分にとって大切な人。育生は誰に食べさせたい?」夕飯を食べている時、母にそう聞かれた育生。迷ってすぐには答えられませんでしたが、その後、育生はおいしいものを食べさせたい大切な存在に気づいていきます。
 あなたが同じ質問をされたとき、思いうかべる大切な人は誰でしょうか。“なぜ”その人なのでしょうか。一緒にいて楽しいから、優しい人だから、ありのままの自分でいられるから…。きっと、その“なぜ”を考えると、その人の良いところやその人とのかけがえのない時間の大切さに気づくことでしょう。大切な人のために今、自分は何ができるかな…。そんなふうに考えて優しく温かい気持ちになる物語です。
 そして、育生は本当に捨て子なのでしょうか。物語の最後、胸がいっぱいになる衝撃の真実が待っています。

 この本には、本のタイトルと同じ「卵の緒」という作品のほかに「7’s blood」という作品も収録されています。こちらは、家庭の事情から突然2人で暮らすことになった異母兄弟の物語です。血の繋がりがテーマになっており、「卵の緒」とは対照的な部分もあるように思えますが、やはり伝わってくるのは人の繋がり、その大切さや温かさです。

 人は一人では生きていけません。今もいろいろな人と関わっているだろうし、きっとこの先もたくさんの人と出会うことでしょう。
 家族・友達・先生…。今、自分の周りにいる人と過ごすかけがえのない時間が大切に思える一冊です。

(泉図書館 小豆)