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掲載日 2018-07-31 00:00:00
タイトル 命のビザを繋いだ男 
小辻節三とユダヤ難民
著者 山田純大/著
著者
出版者 NHK出版
資料の種類
メッセージ全文 ★☆★「杉原千畝が出した“命のビザ”、その先をあなたは知っていますか?」★☆★

1940年、第二次世界大戦のさなか、リトアニア日本領事館の領事代理だった杉原千畝氏が、日本政府の反対を押し切りナチスから逃れてきたユダヤ難民たちに発行した日本の通過ビザ、通称「命のビザ」。彼の英断により命を救われた人は6千人とも言われている。だが「命のビザ」を手にした人々のその先を、あなたは知っているだろうか?長い旅路の末、日本に渡ってきた彼らだが、ビザによる滞在期限はわずか10日程度。滞在期限が切れれば本国への強制送還、すなわち死が待っている。だが実際にはユダヤ難民たちは長期間日本に滞在し、その間に避難先を見つけ出国していったのだという。日本側でユダヤ人たちを救った人物がいたのではないか?そんな疑問を抱いたのがこの本の著者で俳優の山田純大氏だ。何冊もの資料に当たり、ついに見つけ出した、その人物の名は「小辻節三」。全くの偶然(たまたまその話をした友人が知っていた!)から小辻氏を知るユダヤの聖職者トケイヤー師と会うことが出来、さらにそこから小辻氏の遺族へと繋がり、彼の功績とユダヤ難民たちの日本での日々が明らかになっていく。ヘブライ語で行ったスピーチがきっかけで日本のユダヤ人コミュニティから助けを求められ、時に拷問まがいの取り調べを受けながらも尽力した様、彼の助けとなった人間関係や背景など知らなかった事柄が語られていく。

私も「命のビザ」については知っていた。でも山田氏のようにその後に疑問を抱くことはなかった。この本では、ウラジオストック日本総領事館総領事代理であった根井三郎氏についても触れている。外務省の訓令に逆らい、ユダヤ難民たちを日本行きの船に乗せた人物だ。その他にも名前は挙がっていないがオランダのグッドウィル領事、ユダヤ難民たちが渡ってきた敦賀などの市井の人々など杉原氏の「命のビザ」は何人もの手で繋がっていったのだ。そのことをこの本は教えてくれる。

歴史には常に隠れた面があり、名を知られていない偉人たちがたくさんいるのだと思う。歴史は年号と表立った事柄だけじゃない、そのことを忘れなければ歴史はきっと面白い。知らなかったエピソードや偉人たちがそこには存在する。次にそれに出会うのはあなたかもしれない。

(仙台市広瀬図書館 まさお)

※「小辻節三」の「辻」の表記は作中では点が一つの「つじ」ですが環境依存文字のため仙台市図書館HPでは表示できず「辻」表記となっております。