司書のオススメ

掲載日 2019-05-24 00:00:00
タイトル 旅人  
ある物理学者の回想
著者 湯川秀樹
著者
出版者 角川ソフィア文庫
資料の種類
メッセージ全文 『旅人 ある物理学者の回想』
 湯川秀樹/著 
角川ソフィア文庫(角川学芸出版)

★☆★「令和?よろしい、
   ならば明治生まれの少年の話をしよう!」★☆★

新時代突入でお札の肖像も新しくなるそうですが、この本を書いたのは、
後の世でお札の顔になる可能性の高い業績を残した物理学者、湯川秀樹博士。
日本人初のノーベル賞受賞後、だいぶいいお年になってから、
自身の子供時代から青年期にかけてを回想して書いたもの。
理系の(しかも昔の)学者さんのエッセイか…なんか読みにくそう(-“”-)って思うことなかれ。
簡潔なのにとても文学的な香りのする素敵な文章なんですのよ。

明治40年生まれの秀樹少年、
東京で生まれてすぐに京都に引っ越し、はんなりとした環境で育つ。
おっとりしていておとなしく引っ込み思案。
何かきかれても口下手で話したくないから「言わん」というので、
ついたあだ名が「イワンちゃん」。
繊細なのに妙にガンコというお子様に育っていきます。

中高では図書館に足繁く通う文学少年。
同人サークルに入って童話まで書いちゃう。
暗記物の勉強は苦手だけど数学は大好き。

そこへ、かのアインシュタイン博士が来日!京都でも講演会がある!
ここで劇的な出会いがあったか?と思いきや、特に興味がなかったのでスルー。

おいおい、どこで物理に興味持つんだよ…だんだん心配になってきます。
途中、彼の人生にはいくつもの落とし穴が待ち受けていて
タイミングが悪ければ、ひょっとしたら物理の道へ進んでいなかったのかも。

やっと物理の研究者になってからも、劇的に性格が変わるわけでもなく
「研究進まない…そうだ、お坊さんになろう(近所にいっぱい寺あるし)」
と現実逃避したり、
こんな自分には人を幸せにすることはできない、たぶん一生独身だろうと
一人用の家の設計図を描き始めたり、要所要所で謎の繊細さを発揮。
でもその繊細さとある種のガンコさが、彼を世紀の大発見へと導いたのでしょうね。

「未知の世界を探求する人々は、地図を持たない旅行者である。地図は探求の結果として、できるのである。目的地がどこにあるか、わからない。もちろん、目的地へ向かっての真っ直ぐな道など、できてはいない。」
これは困難な道を切り開いてきた湯川博士の想いのつまった言葉。

どれだけ時代がかわっても、それは同じ。
何かに挑戦しているとき、自分が何をしているのか、どこにいるのかも
わからなくなることがあるかもしれない。
でもそれは当然のことで、そんなに不安にならなくてもよいのかも。
私たちだってきっと、地図を持たない旅行者なのだから。

(太白図書館 まっきー)